3代目大名小僧の冒険 第40話~浮かんだ伝言

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3代目大名小僧の冒険

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路地裏の街、大名。ここで僕は不思議な運命に翻弄される。キテレツ作家が放つ第1弾!

【前回の話】3代目大名小僧の冒険 第39話~進退窮まれり

路地裏は異界につながっているという。
でも、その入り口がどこにあるのかは分からない。
いや、正確に言うと、分かる誰かにしか分からない。
そして、分かる誰かになれるかどうかは、誰にも分からない。

僕は断崖絶壁の上に立っていた。
シマダルマの重圧には勝てない。もう半歩でも下がれば終わりだ。
そんな危機的状況で、僕は福岡城址の石垣を思い出していた。その頃は仲間たちと一緒に「肝試し」と言っては、石垣を登っていた。

足場はしっかりしているので、意外に登れるんだけど、降りるのは難しかった(良い子はマネしないでね)。

手を滑らせて落ちてしまうんじゃないかと思うと、怖さが先に立ってしまうからだ。
僕はそれと同じような心境になっていた。シマダルマを押し戻そうとしても、足がすくんで力が出ない。


と、その時だった。背後で声がした。
「あー、クーミン!」
アーシだった。
小さな声だったけれど、静まり返った道場にはよく響く。道場全体の緊張した空気が一瞬緩み、同時にシマダルマの体が軽くなった。

クーミン。本当にクーミンなんだろうか。僕の頭はアーシの声に反応して彼女を探そうとしていたけれど、体は違っていた。
十文字に組んだ竹刀がシマダルマを押し込み、その巨体がひるんだ隙に、崖っぷちから回り込んだのだ。

体を入れ替え、断崖を背にしたシマダルマの懐に飛び込んだ僕は、再び十文字の竹刀で押し込んだ。シマダルマも負けじと押し返してくる。
今だ! 僕はその反動を利用して、一気に体を引きながら、離れ際に面を放った。
「ありゃ~」
右手の大刀はシマダルマの面をとらえようとしていた。

決まる。これですべてが決着する。クーミンとの約束が果たせる。
そう思った。いや、確信した。

しかし…。
僕は脳天に強い衝撃を感じた。僕の右手がシマダルマの面に届いたのと、ほぼ同時だった。
どっちが先だ?

僕は武蔵の顔をした師範代に目をやった。
でも、記憶はそこで途切れた。

頭の中にはひらひらと天女みたいなのが飛び回っている。ここは天国なんだろうか。いや、違う。武蔵と修行した若宮神社の近くにある壁画だ。いつも見ていたので、記憶に刷り込まれていたんだろう。


「まー坊、まー坊、大丈夫?」
「あー、沢村、しっかりしやい」
目を開けると、ヨーコちゃんとアーシの顔がぼんやりと見えた。僕はどうやら道場の隅に寝かされているらしい。面は外されている。

そうだ。試合はどうなったんだろうか。
「あー」
珍しく言い淀んだ後、アーシは言った。
「あー、相打ちやったったい。試合が続けられんけん、負けたったい」
剣道で試合続行が不可能な場合は負けになる。

そう。僕は負けた。負けたのだ。負けてしまったのだ。
「負」の文字が脳内スクリーンに続々と湧いてきた。裸になったら、きっと全身に「負」の文字が書かれているんじゃないか。お経が書かれた耳なし芳一みたいにさ。

その時の気持ちを尋ねられても答えるのは難しい。負けた高校球児が甲子園の土を袋に詰めた後、インタビューされて「悔いはありません」と硬い表情で答えるようなものかもしれない。
どう振り返っても、あれ以上の戦いはできなかったと思うけど、「強い人が好き」というクーミンの希望に沿えなかったわけだからね。

そういえば、クーミンはどうしたんだろう。
「あー、絶対、試合ば見よったっちゃけどね。窓の外におったと思ったっちゃけど。いや、あれはそうやったって。いや、たぶん…」
話せば話すほど、アーシの目撃談は怪しくなっていった。

ま、アーシを責めても仕方ない。その声のおかげで最後の勝負ができたわけだし。あのままだったら、場外反則負けになっていたんだから。

冷静になってそう考えていると、太い声がした。
「沢村、お前、強かったぜ」
シマダルマだった。
「また、試合しょうや。面白かったけん」
なんだかスッキリした顔だった。クーミンを賭けた勝負だったことなど、すっかり忘れている様子だ。

なあ、タロージロー。勝てなかったよ。クーミンにも会えなかったし。これからどうすればいいんだよ。
すると、頭の中に文字が現れた。
「沢村君はよく頑張ったよ」「強くなったよ。すっごく強くなった」
あれ? これってタロージローじゃないよね。
クーミン! クーミンだろ。ね?

「わたし、ずっと見てたよ」「前よりずっとずっと、大好きになったよ」
僕はもう泣きそうだった。汗か涙か分からない水滴が、目尻ににじみ出てきていた。


クーミン、僕は君に会いたい。会って、何も話さなくてもいい。ただ会いたい。それだけでいいんだ。

でも、返事はなかった。
「伝言は伝えた」「伝言はここまでだ」
なんだよ、タロージロー。伝言ってどういうこと? クーミンはどうして姿を見せないんだよ。
「まだ始まったばかり」「そう、旅はまだ始まったばかり」
それはどういうことなんだよ。まだ何かがあるっていうわけ?

しつこく食い下がろうとしていると、めまいがしてきた。いや、めまいじゃなくて周囲の空間が歪んできたのだ。

僕は時間に飲み込まれていった。

黒猫屋珈琲店では、マスターがいつものようにコーヒー豆を挽いている。
「お久しぶりですね」とアルバイトのシャルルが微笑みかける。

彼女が注いでくれた冷たい水を一気に飲み干し、僕はようやく現代に戻って来たことをはっきり認識した。
カウンターの奥では、タロージローがじっと僕を見ている。


これから何が起きるのだろう。

彼らの目がキラリと光った気がしたが、その表情からはまだ何も読み取れなかった。

                                                     シーズン1(完)

【最初から読む】3代目大名小僧の冒険 第1話~異界の入り口

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